数万年もの長きにわたってオーストラリアの大地に暮らしてきたアボリジニ。アボリジニは文字を持たず、石器を使う狩猟採集民族で(農耕は一切行わない)、自然を崇拝し精霊たちによって創造された創世神話の時代や、自らの集団が属する祖先の精霊を“ドリーミング”と訳されるスピリチュアルな概念によって語り伝えています。
文字を持たないアボリジニは、この“ドリーミング”の内容を、洞窟の壁や岩に線刻画や岩絵として描き、人や動物をかたどった精霊像に託してきました。『アボリジナルアート』は、一般的なアートの概念とは大きく異なり、単なる造形表現や芸術作品ではなく、厳しい自然環境を生き抜くために必要不可欠なもの(例えば砂漠の中の水や食べ物の在り処)や先祖代々継承してきた知恵を伝承するために大地に描いたものです。
アボリジナルアートを表現するときによく使われるのが“ドリーミング”という言葉ですが、これは我々が普段使っている「夢」とは全く異なる意味を持っています。アボリジニは大地や生物など自然のあらゆるものから創造の時代の様々な痕跡を辿り、それを歌や絵などに残すことで、先祖からの大事な教えや考え方などを学びます。そして伝承の時代には、このドリーミングの痕跡をたどる行為も「ドリーミング」と呼びます。
アボリジナルアートは大きく2種類に分類されます。中央オーストラリア砂漠地帯のドット・ペインティングと呼ばれる点描画と、ダーウィン東部熱帯地方のアーネムランドのクロスハッチングの2種類です。私たちが取り扱っているのは、そのうちレッドセンター(中央オーストラリア砂漠地帯)を中心としたアボリジナルアートです。
この地域のアボリジナルアートは点で表現されることが多いため『点描画(ドット・ペインティング)』と呼ばれ、元々は中央砂漠に住むアボリジニたちが、厳しい環境を生き抜くために必要不可欠な水や食べ物の在り処を伝承するために大地や岩壁に描いたものです。抽象画のように見えますが、絵画の構成要素は全て自然とのつながりを表象しており、それぞれの模様には重要な意味があります。一般的に多く用いられるモチーフと意味は以下の通り。
座っている人(または女性)
カンガルー、ワラビーの通った跡
野営地、水の在り処など
ヘビ、しっぽ、稲妻、水流
エミューの足跡
4人の野営地(女性の儀式)
カンガルーの足跡
クーラモン(木製・樹皮製の容器)
星
ブーメラン
虹・雲・砂丘など
水の流れと水場
雨
旅の目印(重要な処・休息地)
山麓、雲、ブーメランなど
点描画を中心としたアボリジナルアートは、西洋美術等の影響を全く受けない独自の画法で、現在では世界的に注目を集めており、現在コレクターの間では、高値で取引されるようになりました。アボリジニの描く絵のテーマは男女によって異なる傾向があります。男性は主に男性の儀式を描くことが多く、女性は女性の儀式や家庭内のこと、先祖に関わる地域固有のものを描くことが多いようです。これはアボリジニの社会において先祖代々男女の役割がわかれており、それが今でも存続していることを現しています。男性は槍や槍投げ器、こん棒、戦闘用ブーメランなどを使ってカンガルー、エミュー、オオトカゲなどを獲り、女性は堀り棒やクーラモンなどを使って野生の果実や根菜類、地中にいる虫などを採集します。