むかしティダリックというとても大きなカエルがいました。ティダリックが歩くと、ドシンドシンという地響きがし、大地を揺るがすほどの大きさでした。
ある朝目覚めたティダリックは、とても喉が渇いていて近くの水溜りで水を飲みましたが、それだけでは足りず、ため池や小川の水をぜんぶ飲み干してもまだまだ足りず、とうとう地上の水という水を全部飲み干してしまいました。
ティダリックに全ての水を飲み尽くされてしまった他の動物たちは、カンカンになって怒りました。日ごとにみんなは喉が渇いていき、森の木々の全ての葉っぱもしおれてしまいました。困った動物たちは、ティダリックに頼みに行きました。
「どうか水を返してもらえませんか」
ティダリックは大きな目でじっとみんなをにらみ、あくびをしながら低い声で言いました。
「いやだね」
集まった動物たちは困ってしまい、長老のウォンバットがみんなを集めみんなで相談することにしました。
「ティダリックをくすぐったらどうだろう。鼻をくすぐったらくしゃみが出て、それといっしょに水が出てくるかもしれない」
「しゃっくりをさせてはどうだろう」
でもどうやったらいいのかわからず、みんなは頭をかかえてしまいました。そんなとき長老のウォンバットが、「もしティダリックが大きな口をあけて笑ったら、水が溢れ出てくるんじゃないかのう」と言いました。
動物たちは、それだったら何とかなるんじゃないかと、どうしたら笑わせることができるか考え始めました。
最初に試してみたのが馬とびです。動物たちはみんないっせいに、馬とびをして見せました。やっているうちにとても楽しくなっ、て自分たちが笑い出してしまいましたが、ティダリックはむっつりしたまま、にこりともしません。
次にエミューが、自慢の長い脚でバレエを踊って見せたり、ディンゴが2匹ずつ並んで行進し、それに合わせてカンガルーたちが、しっぽでピシャリピシャリと音を立てたりしました。
続いて、エリマキトカゲが陽気なポルカを踊ったり、笑いカワセミがおかしな話を聞かせたり。本当にばかげた話で、話している笑いカワセミが笑いころげ、息が出来なくなってしまうほどでした。
でもティダリックは、むっつりとして表情を変えません。みんなは困り果ててしまいました。
そこへ、ナムブンという名前の年を取ったウナギが出てきました。長く住んでいた川の水、を全部ティダリックに飲み尽くされてしまい、ナムブンはプンプン怒っていました。
ティダリックの真正面に立ったナムブンは、ウナギのことばで話しかけました。ウナギは体をくねくねさせたり、ねじったり曲げたりというように、自分自身をさまざまな形にかえて会話をするのです。
ナムブンは怒りに震えながら、自分勝手なティダリックを責めました。言いたいことが山ほどあって、上に曲げては下にくねり、右に曲げては左にくねり、だんだん速く、そしてだんだんと変なかっこうになっていきました。そしてとうとう、こんがらがって、自分で自分の体をしばりあげてしまいました。体の真ん中に結び目ができ、身動きができなくなってしまったのです。
ずるくて、むっつりして、みっともないくらいに太ったティダリックは、ここで急に笑いだしました。いままで一度も笑ったことがないティダリックは、自分でもどんなことが起こったのかわかりませんでした。
最初は鼻息が荒くなり、それからクスクスと笑い、そして最後には大きな声で、それもとても長い間笑いがとまらなかったのです。
「ワァアーーハッハッハッハッハ・・・・・」
すると、ティダリックの大きな口のはしから、水がしたたり落ち、大声で笑い続けているうちに、それはだんだん勢いよく流れ始め、しまいには滝のようにあふれてきました。あふれ出した水は、どんどん池や川や湖へ流れこんでいき、もともと水があった場所は、なみなみと水でいっぱいになり、あふれてしまう所さえありました。
のどが渇いていた動物たちは、たっぷりと水を飲んだり、水浴びをしたり、とても満足そうでした。結び目をといてもらったナムブンは、みんなに感謝され、上機嫌で元の小川に帰っていきました。
一方、生まれてはじめて笑ったティダリックは、今までになかったような心地良さを感じていました。思いっきり笑ったので、ピリピリしていた気持ちがゆるんだのと、水ぶくれしていた体が引き締まったせいでしょうか。
ティダリックは、もう決してあんな身勝手なことはしない、とみんなに誓いました。
おしまい
注1 ウォンバット:アナグマに似た有袋類の動物。地面や木の根元に穴を掘って住んでいる。
注2 エミュー:ダチョウに似た翼がない大きな鳥
注3 ディンゴ:オーストラリアに昔からいる野生の犬
注4 笑いカワセミ:カワセミ科で最大の種。大きな口ばしが特徴でオーストラリアを代表する鳥。